天真爛漫3
2023年2月24日
『若女将〜。若女将〜。大変です。』
『もう、お客様がいらっしゃる時間ですよ。
何ですか、そんな大きな声を出して、はしたない。いや、穢らわしい。』
若女将の言うことも至極真っ当ではあるのだけど、女中のみきちゃんの気持ちも
分からなくもなかった。
今日は中秋の名月で、この宿で満月に照らされながら食べる絶品月見団子が
素晴らしいと評判が評判を呼び、お客様がひっきりなしに来ていた状態で、
そこに純骨御一行が来たのだ。
『純骨さんがいらっしゃったの?』
若女将が嬉々としてみきちゃんに問うと
『はい、いらっしゃいました。でも・・・』
『でもじゃなくて、何か思うことがあるならはっきりおっしゃいなさい。
今日は純骨さん、お弟子さんを20〜30人くらい連れてくると言ってたわね。』
『えっ、お弟子さんってあの思い思いな格好に身を包んだ猿達のことですか?』
『何を言っているの。早くお出迎えしてらっしゃい。』
俯きながら、釈然としない思いを抱えたまま、
『へい』
と返事をしたみきちゃんはエントランスへと戻っていった。
内心の動揺を見せずに、なんとか心の均衡を保ってO・MO・TE・NA・S HI。
それがプロフェッショナルだと自分を鼓舞したのだが、
緩やかな流線形な上り框に沿ってぴっちりと並んでるオシャレ猿たちを見た途端
涙が込み上げてきた。
心と脳の容量を超えた情報が入ってきた故に、身体中の水分が眼球に集まって
華厳の滝の如く水しぶきが弾けた。
水の中にいるような視界の中で、オシャレ猿たちの前に立ち
柔らかな笑みを浮かべている純骨を見た時、
これは30年後のパリコレのエンディングか何かですか?
って朧気になりかけている意識の中で思った。思ったんだ。
つづく